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第13話 黒いモノ

last update Last Updated: 2025-05-22 11:03:47

 『キっ』という音とともに今藤堂家の目に黒塗りの車が止まる。

  時間は午前9時少し前。カレンと再会した週末。時間が過ぎるのは早いよね。

 ピンポーン!

 ピーンポーン!

「はぁ~い」

 今日は両親ともにいないらしく、義妹《いもうと》の伊織が玄関へと駆けていく。

 この時俺は完全に寝ていた。そもそもがこの日に約束していたことをすっかり忘れていたのだが……。

 タタタタッ

 バーン!!

「お、おに」

 ――鬼?

「お、お義兄《にい》ちゃん。お、お客様が!! そ、その!!」

「あん?」

 まだ布団の中から顔だけ出して返事する。もちろん出る気はない。

「せ、セカンドの!!」

「お、落ち着け伊織。珍しいな」

 大変珍しい、うちの義妹《いもうと》の慌てる姿。

「だ、だって[セカンドストリート]のカレンが来てるんだもん!!」

「あん? カレン? ……あ、カレンって……」

 がばっと跳ね起きて時計を見ると9時を過ぎたばかり。

――来るのはやくねぇぇぇ? つかやっべぇ……完全に忘れてた。

 慌てて着替えること5分。

 ようやくまとまった姿で玄関へ向かうと、伊織がまだ信じられないって顔してカレンと向き合っていた。

「早く来るなよ」

「早い? ……あなた今何時だと思ってるの?」

「あぁ~わり! 忘れて寝てたんだよ」

 すまんすまんと両手をあわせて謝っていると、隣にいた伊織の視線が俺に当たっているのに気付いた。

「お、お義兄《にい》ちゃんてカレン……さんと知り合いなの?」

「え、あ、うんまぁ……な」

 フシギそうな視線だったものが尊敬のまなざしになっていくのを感じる。

「初めまして、妹さん? 私は日比野カレン。よろしくね」

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